森川です。

デイサービスあけぼのでは、現在4人目の看取りケアをしています。「看取り」という人生の最期を迎えた方のお世話ほど、さまざまなことを考えさせられることはありません。

デイルームの片隅で静かに点滴注射を受けていらっしゃるOさん(86歳)は、花作り農家をなさっていたそうです。菊作りの名人で、挿し芽を植え替えるのに、芽を傷つけないようにピンセットを使っていたとのこと。夫人が教えてくださいました。夫人と長女夫妻は毎日、かならず見舞いに来られます。デイサービスの仕事を邪魔しないようにと、利用者さんの帰宅直後の時間などを見計らって…。土・日曜は次男さん、お孫さんたち、曾孫さんたち…。ご家族が大黒柱であったに違いないOさんとの別れを惜しむかのように……。

Oさんには10年ほど前に難病脊髄小脳変性症で亡くなった長男がおられ、その最期のこと、彼は「胃ろう」造成をしたそうです。O夫妻は、口から食べられなくなった長男をとても哀れに思っていたとのこと。誤嚥性肺炎を繰り返すようになって入院したOさんに主治医は、「胃ろう」を当然のように勧め、胃にチューブを入れて高栄養剤を注入しました。夫人はそれを強い意志を持って断わりました。「酒もタバコもやらず、何より食べることの好きだった主人に、もう一度口から食べさせてやりたい」と。長女も、「兄を憐れんでいた父は、きっと胃ろうを断わるに違いない」と。

入所していた有料老人ホーム(主治医の経営)も出なければならなくなり、〈あけぼの〉は受け皿となって、Oさんを看取らせていただくことになりました。元気一杯に、「あんちゃん、ハロー! 今日も来たバイ。元気にならないかんよ~」と毎日来られる夫人の弟さんも、「高校生のときに、あんちゃんから大学に進学したほうがいい、と勧めてもらったから私の現在がある」と言い切られました。口腔ケアのとき、体位交換のとき、私たち介護者が楽なようにと協力してくださるOさんの優しさに触れながら、この方の一生がどのように豊かなものであったかと、心洗われている毎日です。